軍師殿と私 夢で逢いましょう−6


「……あっ」

と言った次の瞬間、目が覚めた。
趙雲は幕舎の中に簡易的につくった寝台の上で横たわっていた。

「やはり夢だったか……」

自然と呟いていた。
趙雲は大きくて息を吐いて、寝返りをうった。
視界は明るい。
趙雲が床に就いたのは明け方で、まさか一日以上眠っていたわけではないだろうから、眠りについていた時間はそう長くはなかったのだろう。
睡眠時間は短かったが、体の疲れは取れた。
いや、実際夢の事で頭がいっぱいで、疲れなんて頭になかった。
夢……。
やはりあれは夢だったようだ。
実際の過去と虚像が混じった夢。
最後に見た諸葛亮の笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

――しかし、軍師殿が夢に……。

夢に現れる。
それはすなわち、現実の諸葛亮が趙雲を想っていたという事になる……のか?
それはあながち、ありえない事ではない。
今朝諸葛亮が起きてまず始めに出会ったのは趙雲であるし、船でのあの一件からもそう時間はたっていない。
奇しくも船上で軽くいさかいになったのだし、諸葛亮の思考に占める趙雲の割合は大きいと思う。
それが良い方向に……とは限らないが、それでも諸葛亮の思考が趙雲に集中しているという事が、趙雲には大きかった。

良くあれ悪くあれ、諸葛亮が趙雲を想っているには違いない。
その推論に達すると、いても立ってもいられなくなった。
趙雲は意味もなく寝台の上をゴロゴロしたり、枕をばふばふしたりしていた。
嬉しいと言えば嬉しいが、妙に恥ずかしい。
その事実を直視したい様なしたくない様な……。
とは言いつつ、その事で頭がいっぱいなのである。
暫くそうして意味もない行動を繰り返し続けた後、ふと我に帰った趙雲は、急に恥ずかしくなって起き上がった。
寝台は見るに耐えないほどに乱れきっていた。

「何やってんだろ……」

ため息が出る。
趙雲は軽く寝台を整えて、寝台から出た。
軽い脱力感。
趙雲は暫く寝台にだらしなく腰掛けていた。
じっと座っていると、その後にじわじわと沸き起こる高揚感。
先程の推論が頭いっぱいに満たされている。
諸葛亮に会いたい、と思った。

――って、起きたんなら急いで戻らなくては!

いつまでも休んでいられるなんて、お偉い身分ではない。
趙雲は立ち上がって急いで身仕度にとりかかる。
乱れた服を整えて、鎧をつける。
そして団子にした髪に巾を巻く。
急いでいながらもいつもより念入りに準備をする。
鎧を着るのにキマってるも何もない……というのは分かってる。
例え心の問題としても、構わない。
乱れた姿は見せたくないという一心だった。


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