「……私だって君みたいな顔に生まれたかったさ」
「こんな顔に生まれたら面倒くさいぞ。いちいち人に見られて」
「良いじゃないか、皆魅せられているんだろう」
「もの珍しがって見てるだけだって」
「いやいや、君は充分に魅力的だ」
「…………」
「…………」
「何の話してたんだっけな」
「……子供の頃の話だ」
二人は屋敷から出て、庭へ出た。
庭には池や橋などが設けられてある一方で、木々はぽつぽつとしか無い。
「庭まで似せたのか」
「ああ、でも何の木が植えてあったかまでは分かんなくてな」
木は追って植えてくれ、と孫策は続けた。
「懐かしいな……あそこの池で良く二人で遊んだな」
「全く馬鹿ばっかやってたな俺達」
二人が良くやった事と言えば狩りが多いが、夏の暑い日は池で水遊びもやった。
そんな遊びをする年齢でもなかったのだが、周りの目も気にせず遊んだものだ。
「気が気じゃなかったんだ、本当はな」
「はは、母君に怒られると思っていたか?」
「……いや、お前だよ」
「私?」
孫策は顔を背けて、頭をポリポリと掻いた。
「だからさ、お前なんつうか……」
「え?」
「……直視出来なかったんだよ」
「…………」
言っている事は意味が分からないが、孫策の顔からその意味を読み取った。
顔が真っ赤だ。
「……冗談だろう、伯符」
「冗談で言うかよ、こんな事」
「いや、だって……」
「……もう何も訊くなって」
「いつから……」
「もう昔の事だから良いって!」
「あ、伯符っ……」
孫策はそのままスタスタと歩いて去って行った。
周瑜はその背中を見送るしかなかった。
庭には、周瑜だけが残された。
「伯符……」
一人取り残された周瑜は、仕方なく無人の屋敷の中を歩いて回る事にした。
ガランとした屋敷は、見れば見るほどかつて幼少期を過ごした実家を思い出す。
周瑜は望郷の念のままに、隅々まで見て回った。
「ここは、私の部屋か……」
つと入った部屋は、他の部屋より一層懐かしさを呼び起こさせる。
そこは、かつて周瑜が自室としていた部屋にあたる場所だった。
「ここに書棚があって、こっちは机、ここには……」
調度品が無いだけで、まさしく間取りはかつての自室のそのままだ。
窓もかつてと同じ場所に、確かにある。
「ここの窓から伯符達が住んでる南側の屋敷が見えたんだったな……」
――今、伯符は何をしてるんだろう。
そう思って、度々この窓から向こうの屋敷を見ていた。
姿は見えはしないのだが、そこから見る景色が周瑜は好きだった。
そして今も昔と同じ様に、窓から外を覗く。
屋敷は、無い。
孫策達が住んでいた屋敷は、そこには無かった。
孫策は自分達が住んでいた方の屋敷までは再現しなかったようだ。
屋敷があった場所には、今はただ林があるのみである。
「伯符……」
かつてあんなに近くに暮らしていた幼馴染みは、今やこの江東の主。
そして自分は、その将の一人。
周瑜は将として孫策を支えていければ良いと思った。
ただ主と従の関係。
それで良い、自分の孫策への感情などはずっと自分だけの物にしておけば良い。
そう決めて、周瑜は孫策の挙兵に従った。
「今更過ぎるだろう……」
――昔の事だからもう良いって!
「昔の事……なんだな?」
孫策はもう訊くなと言った。
言われなくても訊かない。
訊けるわけがない。
訊いてどうなると言うのだ。
昔のうちに素直になっていれば良かったのかとか。
今だに想っているのは私だけなのかとか。
どうしようもない事をぐるぐると考え続けなければならないだけだろうに。
次に顔を合わせる時は、何事も無かった様に。
ただ主と従の関係。
最初から決めていた事を守るだけだ。
だから―……。
「今くらい、泣いても良いよな」
無人の屋敷で良かったと思った。
内容に関しては、我ながら曖昧な感じに…
直接的な表現はあまり使いたくないと思ったら、私の文章力だとこうなる←
最初はそのつもりはなかったのですが『上邪』の数年後だと思って下さると助かります
どこまでも片想い…片想い好きみたいです、私