軍師殿と私 夢で逢いましょう−9


「私達自身もどうすべきか判断つかなかったのです。無闇に騒ぎを広げるのも良くないと思ったので」

諸葛亮の弁明は、もっともな話である。
結局杞憂に終わったのだから、尚更諸葛亮の判断は正しかったといえる。
諸葛亮は更に続けて言う。

「そうそう、前線に出ている我が軍の諸将等の帰陣は二三日後になると思います。それなりに戦ったらすぐ帰ってくる様伝えましたので」

「…………」

「将軍達が帰陣されたら、我が軍は荊州南郡の制圧に向かいます」

諸葛亮は次の戦についての説明を始めている。
生憎趙雲の耳はほとんどその言葉を聞き流していた。

――そう、そうだよな……。

趙雲は気付いたのだ。
諸葛亮は趙雲が夢を見ている間、ずっと今後の方針などで忙しく立ち回っていた。
眠っている趙雲の事など考える暇も無かったであろう。
というより、それ以前にそんな心境ではなかった筈。
ならば諸葛亮が趙雲を想っていた……という推論は全く成り立たない。
趙雲が諸葛亮を夢に見たのは、諸葛亮が趙雲を想っていたからでもなんでもなかったのだ。
自然とそういう結論に達する。

――そうだ、良く考えれば想った相手の夢に出るなんておかしな話じゃないか。
夢を見ていたのは私。
私が軍師殿の事を想って眠ったからであって、向こうは全く私の事など考えてなかったのだ。
夢に見たのは私自身のせい。
はは、そうだ、この考えの方が自然じゃないか……はは。

「南郡制圧では、趙将軍にも一軍を率いて出陣して頂くつもりです……って、将軍?」

「あっ、えっと……」

「聞いてますか?」

しまった、と後悔した時は既に遅い。
なんとなくは聞いていたが、ほとんどが右から左へ抜けていった。
でも細かい指示では無かったようだし、まぁ大丈夫だろう。
趙雲は知っていた風をあくまで装う事にした。

――ん、待てよ?

再び、趙雲は気付いた。
夢に見るのは夢を見ている側の人間がその夢に現れた人物を想っていたから。
その図式が成り立つとすれば、諸葛亮の夢に趙雲が出てきたのは?
諸葛亮が趙雲の事を考えていたから、夢に――

「ッ……」

「えっ、どうかしましたか?」

趙雲の体がびくんと揺れた事に、諸葛亮は驚いた。

「あ、すいません、なんでも……」

「そう、ですか……?なら良いですけど……何か質問は?」

「はい?」

「何か私に訊きたい事はありませんか?」

訊きたい事、訊きたい事。
それならある。
あの夢、趙雲が現れたという諸葛亮の夢……。

「あの、昨夜の夢の事……」

「え?」

「私が現れたという夢の事ですが……」

「はぁ?」

次の戦についての質問は?という意味で言ったのに、何を訊いてくるんだこの男。
諸葛亮は思いっきり怪訝な顔をして趙雲を見た。
無理もない。
戦の話からワンクッションも置かずに昨夜の夢の話など、戸惑うに決まっている。

「あの夢についてお訊きしたいんですが」

「ちょ、ちょっと!待ってください」

「はい」

「質問ってそういう意味じゃなかったのですけど……」

「でも私に訊きたい事はって……」

「そ、それになんなんです……どうして夢についてそこまで執着するんです……」

最後はほとんどぼやきだったのか、声が小さくて良く聞こえなかった。
なので趙雲は構わず続けた。

「私は、一体どういう風に現れたんでしょうか」

諸葛亮の言葉を全く意に介さない趙雲の態度に諸葛亮は面喰らった。

「な、だから……貴方は……」

「お願いします」

趙雲が真摯に頼み込むので、諸葛亮も上手く立ち回れないらしい。

「だから、それは今朝も言いましたが、ふっと現れて何も言わずに去って言ったんです。本当に、何も喋らなかったんですから……」

諸葛亮はあまりこの話題について語りたくないのか、語尾が非常に歯切れが悪い。
だが趙雲はそんな様子を意に介さず、質問の手を緩めない。

「もっと具体的に教えて下さい」

「もう……なんなんですか、貴方は……」

諸葛亮の夢に現れた自分は何をしていたのか。
それが分かれば、諸葛亮の自分への印象というか、意識?が分かるかもしれない。
それはきっと、諸葛亮との仲を縮める助けとなる。
趙雲はこう考えている。
故に、必死である。

「お願いします、出来れば何をしていたのか逐一説明を……」

「…………」

だからこそ、趙雲は諸葛亮の表情の変化に気付いていなかった。
かなり切羽詰まった顔で、趙雲を睨み付けていた事に。



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