軍師殿と私 武器と仮面と、すれ違いの興奮


「私も将軍の事を期待したいですし……、事実期待していました。だから、貴方に今回の役を頼みました」

「では、なぜ」

「やはり貴方は冷静にいられそうにない。そう判断しました」

「あ、あの、だから、声をあげてしまったのはつい……」

「それだけではありません」

「え?」

「ずっと興奮してました」

「えっ!?……ああ、やはり?」

「は?」

「あ、いや、軍師殿が」

「私は貴方の事を言っているのですが」

「私?」

諸葛亮は大きく頷いた。
そして、趙雲を指差して言う。

「頬が紅潮していましたし、汗をかいています。それに、目が異様に輝いていますよ」

「そ、それは……」

貴方の事でしょう、と言おうとして趙雲は口をつぐんだ。
こんな状況で諸葛亮が嘘をつくとは思えない。
納得し難くとも、それは事実なのだろう。
だとしたら何故、そんなに興奮していたのだ?
と言うか、いつから興奮していた?
趙雲自身は全くその自覚は無かったのだが……。

「本当は私に色々と言いたい事があるのでしょう?いや、やりたい事ですか」

やりたい事?

「私に手が出そう……なのではありませんか?」

手が、出る?
諸葛亮はジロリと睨み付ける様な目で趙雲を見ている。
その目は挑発的でありつつも、どこか怯えている様な……。
全身に力が入っているのも分かる。
警戒しているのだ。

「貴殿方はいつもそうです。いつも力で解決しようとする。気に入らない相手を力で排除しようとする」

「…………」

趙雲が目をぱちくりさせている間も、諸葛亮は少し唇を尖らせて趙雲を睨んでいる。
いや、一見するといつも通りの無表情なのだが、よく見ると微妙に違うのだ。
今までも気付かなかっただけで、小さな変化を見せていたのかもしれない。
趙雲は諸葛亮の顔の部分を一つ一つ観察する。
改めて見ると、小さな口なんだな……と趙雲は思った。
あれで時に自分より一回り大きい武将を黙らせ、時に他国の君主をやりこめる。
この小さな口が、と思うと不思議な気分になった。

「私を気に入らない気持ちは分かりますが……。どこを見ているんですか」

「え?あ、いや!」

貴方の口を……等とは口が裂けても言えない。
慌てて口元から目を反らすと、まともに視線がぶつかった。
視線をかわそうと目線を下げると、襟口からのぞく諸葛亮の胸元に目がいった。
先ほど走ったせいか、着物はわずかに崩れ、そこから薄い胸が見え隠れしている。
白い肌だ。
眩しいくらいに。
上下する胸の動きが、諸葛亮の鼓動の早さを伝える。
息はやはりやや荒い様だ。
胸の上下する幅が大きい。

――って、だから私はどこを見ているんだっ!!
急いで諸葛亮から目を離した。
何だか妙に胸がドキドキする。
興奮している、のか。
鼓動がうるさいほど大きいのに、諸葛亮の着物の衣擦れの音だけがいやに耳についた。
確かに諸葛亮の言う通り、自分はおかしい。
何かが違うと趙雲は焦った。

「あの〜、趙将軍」

一生懸命櫂を漕いでいた筈の兵達が、急に話しかけてきた。

「うっ、なんだ!?」

「そろそろ到着しますが……」

「あ、ああ……そうか」

「そのまま着岸して下さい」

諸葛亮はテキパキと兵達に指示を出している。
趙雲は何も言えずに、その様子をただボンヤリと見ていた。
そのうちに、船が岸へと着いた。



Back-- Novel Top-- Next