軍師殿と私 某月某日-2


某月某日
今日から本格的に仕事を再開した。
不在にしていた分仕事が溜まっていたかと思ったが、予想外に特にやることもなかった。
またこれは亮兄に迷惑をかけたかと思えば、なんと亮兄曰く謖が私の代わりにさばいていたのだと言う。
謖は普段は亮兄付きの秘書の様な事をさせていたのだが、私がいないあいだ代わりに仕事に入っていたらしい。
昔から優秀な子だとは思ってはいたが、もうそんな事が出来るまでに成長していたとは驚きだ。
どうやら仕事に不備も特に無かったという話だ。
ただここであまり褒めると調子に乗りそうだから、私からはあまり褒めないでおいた。
謖は頭はキレるのは良いが、多少そんな自分の才能に自惚れているきらいがある。
自分を良く理解するよう再三再四言い聞かせてはいるが、あまり効き目はないようだ。
ここは亮兄の口から言ってもらった方が良いかもしれない。
謖はどうも実兄の私などより余程亮兄の方を尊敬している気がする。
謖も趙雲将軍くらい謙虚な姿勢を持つべきなのだ。
爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
私が彼だったらもっと偉そうにしてしまうんじゃないかと思う。
なんだが我ながら趙雲将軍讚美が激しい。
私が抱いていた武将の固定概念とはだいぶ異なる人だったから、どうしても印象が強いのだ。
そう言えば趙雲将軍に何の本を読んでいたのか訊いてみた。
今日見かけた時も本を読んでいたから思い出したのだ。
読んでいたのは韓非子で、法家の書を中心に読んでいきたいんだそうだ。
てっきり四書だとか儒家の本かと思っていたから、意外だった。
そう言えば滞在中も法家がどうとか言っていた気がする、書いていて思い出した。
四書の習いなら一応は備えているらしい。
どういった生まれなのかお聞きした事はないが、それなりの家庭だったのだろうか……なんて、偉そうな言い方だったか。
亮兄が法家主義だから、そのせいですかと半分冗談に言ったら実はそうなのだど恥ずかしそうに返されたから驚いた。
趙雲将軍も亮兄をなかなか敬愛されている様に私なりに感じていたから言ったのだが、本当にそうだったとは嬉しい。
かく言う私も亮兄の真似をして法家の書を一心不乱に勉強していた時期があったのだ。
その事を言うと、今度は向こうが驚いていた。
それから将軍は仲間として秘密にしていて下さい、と笑った。
勿論私は快諾した!
趙雲将軍の言う通り我々は仲間だし、なにより二人で秘密を共有出来るというのは嬉しい。
二人の秘密は亮兄も知らないのだ!と今書いている途中もにやにやしてしまうのが情けない。
ああ、ならばこそ一層謖には将軍を見習わせたい。
あの子も亮兄を敬愛する同盟(仮)の仲間なのだから。
謖は亮兄付きの役務に戻した。
亮兄はもう一人前に仕事をさせても良いのではないかと言っていたが、私としてはまだまだ心配だ。
それから外征中の殿は、無事に益州へ入り劉璋と面会したそうだ。
これから五斗米道との戦いになるんだろうか、大丈夫だろうか。
あっちには龐統殿がついているから心配はないのかもしれない。
実は私は龐統殿も実はあまり得意ではない。
亮兄は昔からの付き合いで親しくしていたそうだが、私には少し雰囲気が合わない人物だ。
そうか、良く考えたら亮兄とは親戚でもあったんだった。





某月某日
今日は寒かった。
1日1日と秋が深まる気配は感じていたが、急に駆け足で秋が到来したようだ。
冬の始まりかと思っても良いくらいだったかもしれない。
こういう日は仕事が捗らない。
事前に寒くなるぞと構えが出来ていたならまだ良いのだが、いきなり寒くなられると気分が沈む。
せめて前日にはもっと分かったなら心の準備がつくものを。
亮兄が昔毎日天候を観察していれば、明日の天気はどうとか、気温はどうとか、風はどちらから吹くのかとか、分かってくるものだとか言っていた。
でも正直そこまでするのも面倒だ。
未来の天気を予想する専門職を作っても良いんじゃないだろうか。
勿論、今までにもあった占いだとかであーだこーだ決める天官ではなくて。
亮兄の方がよっぽど天候に詳しいのだから、情けないというものだ。
今日劉封様をお見かけしたら、なんと韓非子を読んでいた。
なんなんだろうか、今は法家を勉強するのが流行っているのだろうか。
良い傾向だとは思う。
亮兄は法家主義を一番にとっておられるし、殿も法家が一番現実的だと思われていたようだし。
北では曹操が法家主義をとって政治を進めている。
私も勉強しなおさなくてはならぬだろうか!
武将に質問されて答えられないようでは立つ瀬が無い。
殿が出立されて暫くは忙しかったけれど、近頃は仕事も落ち着きを取り戻してきたし。
それも謖がちゃんと私の代わりに仕事をこなしてくれていたお陰ではあるのだが……。
明日こそは暖かくなって欲しい。
ああ、でも急にこんな冷え込んだとなれば、紅葉の訪れも早まるかもしれない。
今年は紅葉を見に行く暇があるだろうか。
勉強も重要だが、紅葉を見に行くくらいの余裕は持ちたいものだ。
実はここ武陵に住み移って以来、季節毎の行楽場所に良い所がないかは調査済みだ。
紅葉ならば少し遠いが、官庁より東に位置する山が見物だと聞いている。
昔まだ十代の頃は兄達や亮兄とも良く行楽に行ったものだが、今年も久々に行けたら良い。
いやしかし、外征中の殿達に申し訳ないだろうかという気持ちもある。




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