軍師殿と私 某月某日-3


某月某日
やはり今日も気温は上がらず寒かった。
しかし今日は昨日の今日であらかじめ心の準備が出来ていたから、まだマシだった。
そろそろ今年の収穫の時期だということで、今日は城下の民の畑の様子を見て回った。
今年は気候も良かったためか、作物の実りも順調なようで、税収も予定値は無事上回りそうで安心だ。
益州の殿のもとにも気兼ねなく兵糧を送れるだろう。
支配者が代わったばかりで農民達も戸惑いが大きかったのではないかと思うが、常識的な税率だったし、戦後処理も速やかに穏便に済ませていたのが効を奏したか、我々への反応も悪くはない。,br> 特に趙雲将軍の評判は上々のようだ。
趙雲将軍は城下周辺の警備、治安維持が担当のため、民と触れあう機会が他の武将より圧倒的に多い。
守られてるという事も感じるのであろうし、なにより人柄がものを言う。
正直私も趙雲将軍に守られる、と言われて悪い気はしない。
いや、むしろ嬉しい。
なにより見た目に立派だから……やはり人間は外見だ、羨ましい。
張飛将軍や関羽将軍も敵を威圧するという点では素晴らしい外見をしているが、民を守るという役目では趙雲将軍が適役だろう。
広告塔にもなるのだから、やはり趙雲将軍一択だ。
そういう理由もあって殿や亮兄は彼をその役目につけてるのだろうか。
いや、確か荊州に入るまえからそういう役回りだったといっていたかな?
どっちにしろ、まさにあの人の天職であろう。
当たり前というか、女性にも大変人気があるらしい。
たしかご妻帯はまだだったと思うが、しようと思えば引く手あまたな気がするのだが、何か理由でもあるのだろうか。
いつぞやか先の荊陽太守だった趙範に寡婦の兄嫁を勧められたがにべもなく断ったと亮兄が話していた。
しかし正直なところ、そこで二つ返事で承諾しないからこそまたカッコいいと思う自分もいるというか。
モテるからと浮かれていたら、私は勝手ながら幻滅をしていたかもしれない。
趙雲将軍にはやはり相応の素晴らしい女性を選んで欲しいという気持ちもあるし!
亮兄も申し出されてもキッパリと断る意思を持つというのは素晴らしいと言っていた。
日記なのか趙雲将軍についての評価なのか分からなくなってきた。
もともと日記は自由に書いていくつもりだったからまあ良い。
収穫が実際に始まるまでは、暫く暇になるだろうか。
書庫を覗いてみたら、昔読んだ本が沢山出てきた。
とりあえず読み返すくらいはしようと思う。





某月某日
今日は気温がやや上がり昼過ぎから雨が少し降った。
出掛けるのに支障が出る程ではなかったと思ったため構わず出かけたが、予想以上に体が冷えた。
風邪を引かなければ良いが。
日中趙雲将軍にお会いしたら、休憩時間ということでまた書を読んでおられた。
そんな時間の合間にまで勉強するとは偉いなと思ったら、勉強してる間は他の事を考えなくて済むから良いのだという。
そんなものだろうか、人それぞれだなと思う。
我が家の書も借りて良いと申し出たら、随分恐縮はされていたが喜んで貰えてるようで嬉しい。
同志であるし、助け合わねばならないと思う。
しかし人を読んで構わないよう、片付けておかなければならないと気が付いた。
今日関羽将軍から政務について細々と訊いてきた手紙が役所に届いていたが、簡単に判断できる内容であったし、亮兄に訊くまでもないと判断して、私が返事を書いておいた。
関羽将軍は思ったよりも繊細な文字を書かれる。
あの逞しい腕であの様な字を書かれる姿を想像すると、なんだかちぐはぐて少し笑ってしまう。
言われてみれば関羽将軍も武将勢の中では学がおありになるようだし、字が綺麗でもありえる事ではある。
今まで勝手な先入観を持っていたが、色々と考え直す必要があるのだろうかと思ったが、やはりあの方の尊大な口調とか態度は思い出しても胃が締まる気がする。
それでも他の武将連中とは違ってやたらと騒いだり乱暴な真似をしないので、なんとかやっていけそうではある。
あの方の息子さん方はなかなか人当たりが良いという事も知っている。
関平将軍は少しの間亮兄の護衛についていた事があるから知っている。
感じの良い青年だったのだが、私はやはり護衛には趙雲将軍の方が安心できるとは思ってしまった。
でも関平将軍は私とも年が近いし、仲良くなりたいとは思うのだが。
紅葉!
そろそろ紅く染まったのではないかと思って人を向かわせたら、もう既に観て回るには良い頃合いに染まっているらしい。
葉が落ちてしまう前に観に行かなければ。,br> 良い具合に最近は仕事が少なくて、1日くらいなら抜けられる気がする。
明日亮兄を誘ってみようか。



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