某月某日
今日は前から季常と約束してあった行楽、というか郊外に紅葉でも観に行くかと決まっていた日だった……のは昨夜の通りなのだが、ああ、なんということか。
最近色々と想う事多くたたでさえ浅い眠りが更に芳しくなかった故に気分転換になればと思って誘いに乗ったというに、その悩みの種がまさに私の前に現れようとは!
私は聞いていなかった……聞いていれば承諾はしなかった筈だ。
いや、決して彼のみが私の悩みの種だというわけではない。
然れど専らの悩みは彼であっただろう。
それもまた一昨日仕事で一緒になったがため、余計今日こそは忘れたいと思っていたのに。
待ち合わせ場所に彼の姿を認めた瞬間、あまりに苛立ちが募って気の済むまま声を荒げようかとも思ったけれど、彼自身ひどく驚いた顔をしていたために、私の怒りは矛先を沈めねばならなかった。
彼も知らなかったのだとすると、季常が勝手になした事には間違いないないのだが、少し遅れてやって来て、昨日急に将軍もお誘いする事にしましたと笑いながら言われては、私からは何も言えない。
しかし季常はどういうつもりで彼を誘ったというのであろうか。
何度も何度もかけ巡ったその疑問を、その度に近頃二人が仲が良いからだと、ただそれだけなのだという答えで打ち消す。
私が知らない所でかなり仲良くなっているようだし……。
微かに、私が彼を最近避けていたのに気付いて、それで敢えてこんな真似をしたのではないかという想いもある。
まさか季常がそういった人の裏を読むような真似が得意だとは思えないが、内心最近露骨に過ぎたのではないかと思う事がある。
一昨日も、心の準備が出来ていなかったためにかなり狼狽した。
嫌いな人間をそれとなく避ける事は今までもしてきたが、その逆は無いためにどうしても上手に振る舞えない。
そうだ、本心では会いたいのだ。
会いたい、話したい、せめて顔を見たい。
自分の気持ちに嘘をつくような真似を上手く出来る筈があろうか……、少なくとも私はそれほどに器用な人間ではない。
だが、それではいけない、いけない。
この様な気持ちを表に出すのはここだけにしなければならない。
分かってはいるのに、上手く出来なくてもどかしい。
季常にもしこの想いが気付かれているのだとしたら、なんと恐ろしい事であろうや。
恐ろしい事だと思う一方で、それならばと安堵している事がもっと恐ろしい。
それならば……なんだというのだ。
ただ二人が仲が良いからという、私とは何の関係もない、二人だけの都合だけで彼を呼んだのだとしたら……。
嗚呼、嗚呼、なんという烏滸がましい想いだとは承知の上でなお、自分の感情に理性が置いていかれる。
先日、朝彼等が二人で連れ立って出仕してくる姿を見て、自分で呆れるほどに苛立った。
季常を支えるような形で、妙な時間に現れたのを、間が悪い事に私は偶然立ち会ってしまったのだ。
しかもその苛立ちを季常本人にぶつけてしまうとは、もう何度も後悔したことだが、未だに時間を戻したくてたまらない。
季常が昨夜帰っていない事は幼常から聞いていたため、一瞬本気で打ちのめされた様な気分になった。
流石に二人の間に何かしら穏やかならざる事態が生じているとは思わないが、ただ、私が入り込めないその空気に殺されそうになる。
あの日、季常に悟られたかもしれない。
あまりに支離滅裂な事をしてしまったがために、その可能性は捨てきれない。
正直紅葉がどうだったかなど、これっぽっちも覚えていない。
季常が良く気を効かせて私達の会話を盛り上げ、食事も用意してくれた事は分かった。
栗が好きな季常らしく栗がふんだんに使われた食事であった。
ただ、彼が自前の料理を用意してくれた事がもっと驚いた。
私は少し風景を楽しんですぐ帰るのかと思っていたため、何も用意をしていない。
こんな所でも、私だけ乗り遅れた様で歯痒い。
季常が幼常の事や、髭殿の事を話してきた気がするが、これも良く覚えていない。
また明日聞き直さなければならないだろう。
彼の方は……非常にいつも通りだった、と思う。
最初こそ戸惑っている様だったが、季常もいたためか、すぐに場に馴染んで紅葉を楽しんでいるように見えた。
ふと、二人になる時間があった。
何故季常がいなくなったのだろうか……ああそうだ、季常が突然猫を追いかけ始めたのだ。
すぐ戻るからといいながら急に走り去り、気付いたら私たちは二人きりになっていた。
会話が無い、と思った私は一番頭にあった事を真っ先に言っていた。
言ったというよりは謝った……先日のことを。
急遽私の用事に付き合わせて悪かったと言ったが、そんな事今言うべき事ではあるまい。
向こうも少し驚いたようだが、お気にせず、と言って笑う。
これが私の仕事ですからと。
季常と仲良くしてらっしゃるようで、と尋ねると、また微笑んで肯定した。
お二方が気が合うとは少し意外だったと続けたのは良いが、皮肉めいた口調になっていなかったか、今思うと心もとない。
なんと返されたのだったか、なんとなく誤魔化されるような答えをされたが、人が仲良くなったきっかけを詮索するのも流石に気が引ける。
今度は向こうから、お疲れのようで、と訊かれたがそんなに顔に出ているだろうか。
そう切り出されたのを良い事に、先日も、今日も機嫌が悪いように見えたら申し訳ないなどと言う。
嫌われようが構わない……いや、むしろ嫌われたくらいが良い筈なのに、ついそんな弁解をしてしまった。
それから、無理をしないようにと諭され、最近夢見は悪くないか良く眠れるか、そんな事を訊かれた。
彼はいつも通り涙が出そうなくらい、優しい。
その優しさが私を如何に苦しめるのか彼は知るよしもないだろう。
彼は単純に人柄の良さで私を心配してくれている。
そんな彼の近くに、私のような人間がいてはいけないのだ。
そう思うのに、どうもそうはいかない事ばかりで……。
いや、私が本気で決意仕切れてないせいなのではなかろうか。
そんな私の甘えが、こんな状況を作り出すのに違いない。
彼の優しさに甘えてはいけない、彼とは距離を取らなければならない。
そう何度も何度も自分に言い聞かせているのに、今度は二人だけで紅葉を観に来ないかと言われて、承諾してしまう私は本当に救いようがないほどの愚か者だ。
〔続〕
○あとがき○
一度書いてみたかった作中文形式の小説。
でもあまり日記という事を活かせず、特に日記らしくもない文章に\(^o^)/
ただの手抜きの一人称文だコレ。
趙雲×馬良くらいの気持ちで書きました。
私的に趙馬と言ったら趙雲馬良です。
馬良に嫉妬する孔明とか可愛すぎて死ぬ(私が)。
周りが動いてくれないと進展出来ない趙孔。